以下,要約を転載します.
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本稿は,「体育会系学生は他に比して良い就職を得る」という体育会系神話の起源と変容について,それが埋め込まれた(embedded)社会的文脈をたどり,直近の趨勢について統計的に記述した上で,体育会系神話のゆくえについて展望することを企図している。
体育会系神話の起源は,大正末期から昭和初期,体育会学生が明晰な頭脳と強健な身体を併せ持つスーパーエリートとしてあり,企業にとって望ましい人材像の象徴であったことに求められる。戦後,大学教育がマス化し,そのエリート性は徐々に失われたが,90年代まではOBOGリクルーターの活躍や企業スポーツ採用の隆盛によって神話は有効であるかに見えた。2000年代に入ると大学教育がユニバーサル化し,学生アスリートの数が激増したことで,体育会系は「高威信大学」「伝統的チームスポーツ」「男性」を特徴とする「エリート体育会系」とその他の「ノンエリート体育会系」に分化した。しかし,2021年3月卒の体育会学生の就職状況を統計的に分析したところ,2014年時点に見られた男性の優位性は消失し,女性優位に逆転していたこと,大学や「チームスポーツ」といった所属が影響力を持つ男性とは対照的に,女性については学業と競技の両立など,大学における活動への取り組みが人気企業への就職に影響を及ぼすこと,などが観察された。
これを踏まえ,コロナ禍の体育会系就職における属性依存型から持続的学習型へという変化の兆しを,今後の大学教育,採用企業,日本社会,そして体育会系学生自身の変化にとってポジティブな契機とすべきであると主張した。
日本労働研究雑誌 2022年5月号(No.742) 特集:教育機関における職業能力の形成(https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html)より
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